朝まで抱っこしていた思い出

私が初めて犬を飼ったのは、小学3年生の時でした。近所に子犬が生まれて見に行ったのが最初です。白くて、フワフワした子犬は一瞬にして私の心を虜にしました。
ですが、その子犬は発育が悪くて飼い主は飼育を放棄しているようでした。
私は、親を説得してその子犬をもらう事にしたのです。衰弱しかかっていた子犬にミルクを与え、ダンボールに入れました。私は、来たばかりの子犬が気になって気になって仕方がありませんでした。

夜中。子犬は初めての環境が不安だったのか、クンクン鳴き始めました。私は、その鳴き声がとても哀しく聞こえて、そっとその白い体を抱き上げました。柔らかくて、あったかくて、そして甘えてくれる子犬がとってもかわいかったのです。

私は、まるで赤ちゃんをあやすように子犬をゆさゆさ揺らしました。しばらくはクンクン鳴いていた子犬ですが、次第に眠りました。スヤスヤ眠る姿は、本当にかわいかったのです。そして、眠った頃を見計らってそっとダンボールに戻したんです。ところが、私が離れるとまたクンクン鳴き始めるんです。私は、どうしてもその場から離れる事はできませんでした。

季節は秋。寒くて寒くて、私はパジャマのままずっと子犬を抱き続けました。
最初は、なんで私がこんな事をと思いました。寒いし、眠いし、もうどうしていいかわからなかったんです。
でも、子犬の安心した寝顔を見ていたら、そんな気持ちもいつしか消えてしまいました。
子犬は、母犬に甘えてこれなかった子です。子沢山の母犬で、子犬は満足におっぱいを飲むことさえできなかったそうです。そんな子犬にとって、誰かに甘えるというのはもしかすると初めてのことだったのかもしれません。

子犬はいつしか大きくなっていきましたが、私の前ではいつも甘えん坊でした。私が近づくと、いつもお腹を見せてくれて撫でると喜んでくれました。家族のなかでも、私と一番の仲良しでした。
今でも、子犬だった頃の温もりを忘れる事ができません。